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鹿児島地方裁判所 昭和42年(ワ)365号 判決 1968年11月14日

主文

1  原告らの各請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は、「被告中江好孝は、原告らに対し別紙第一目録記載の土地を明渡し、かつ昭和四二年四月一日以降右明渡ずみに至るまで一箇月金六、四八〇円の割合による金員を支払え。被告医療法人玉水会は、原告に対し同第二目録記載の建物を収去して同第一目録記載の土地を明渡せ。訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として

一、別紙第一目録記載の土地は、原告らの共有の土地である。

すなわち、

(一)  右土地は、もと訴外大園金次郎の所有であつた。

(二)  右金次郎は、昭和四〇年四月一八日死亡し、原告大園ヤヱはその妻として、その余の原告らはその子として右土地を法定相続分に従い相続した。

二、右金次郎は、昭和一二年四月一日被告中江好孝の先代の訴外亡中江佐八郎に対し右土地を賃料一箇月金一二円、毎月末日払い、期間三〇年の約で賃貸し、右佐八郎は右土地の上に別紙第二目録記載の建物を建築して、病院を経営していた。

三、右佐八郎は、昭和三五年一〇月二三日死亡し、被告中江好孝が右賃借権および右建物を相続により承継取得した。そして、右賃料は、その後改訂されて、昭和三七年四月以降一箇月金四、八六〇円となつている。

四、原告らは、昭和四一年五月九日付内容証明郵便をもつて被告中江好孝に対し上記賃貸借契約の更新拒絶の意思表示をなし、右意思表示は翌日到達した。

五、原告らが右契約の更新を拒絶するのは、左記のような自己使用という正当事由があるからである。すなわち、

(一)  右土地は、原告らの相続財産中唯一の価値あるもので、かねて原告らはこれが遺産の分割によりそれぞれ右土地に居住して商売を営むことを協議し、目論んでいる。

(二)  されば、原告らは、相続開始前より、殊に相続開始後は強く被告中江好孝に対し更新拒絶の意思表示をなし、期間の遵守方を申し入れ続けて来たところ、同被告は期間のことは承知している旨回答し、さらに原告らが期間中の賃料の増額方を要求した際、同被告は、賃料を増額するなら、契約を更新することになるが、それでもさしつかえないかと回答して来たので、原告らは、賃料を増額しなかつた。よつて、同被告は、期間終了により右土地の明渡しを承諾していたものである。

六、仮に然らずとするも、被告中江好孝は、昭和三三年二月一五日原告らに対し昭和四二年三月三一日限り右土地の明渡をなす旨の合意をなした。すなわち、上記賃貸借については、昭和三三年二月一五日になつて土地賃貸借契約書が作成され、同時に公証人の認証を受けた。右土地は、上記のように原告家の唯一の宅地にして、原告らが自ら使用することにしていたので、被告中江好孝にもこのことを伝え、同被告もこれを了承し、期限を昭和四二年三月三一日と合意し、これを明確にするため、並びにその他の条件を判然取り決めて右契約書を作成したものである。よつて、右契約書作成の日に同被告は、右土地を昭和四二年三月三一日限り明渡す旨の合意が成立したものである。その後、昭和三七年夏頃同被告は、その所有宅地上に存する被告方建物を増築するに際し、原告らと同被告との間で境界につき紛争が生じたが、原告らは、同被告に対し上記明渡しの合意を遵守することの確認を求め、右確認が得られたので、原告ら側にはみだした上記増築部分の敷地を時価の約半額で同被告に売渡した次第である。

七、仮に然らずとするも、被告中江好孝は、昭和三七年六月八日被告医療法人玉水会に対し上記賃借権を原告らの承諾を得ずに譲渡したので、原告らは、本件訴状をもつて被告中江好孝に対し右契約解除の意思表示をなす。

八、しかるに、被告中江好孝は、右土地の明渡しに応じないので、原告らは、同被告の債務不履行により昭和四二年四月一日以降一箇月一坪(三・三〇平方メートル)当り金六〇円、全地で金六、四八〇円の割合による賃料相当の損害を受けている。

九、被告医療法人玉水会は、昭和三七年六月八日被告中江好孝から別紙第二目録記載の建物の贈与を受けて所有し、右土地を占有している。

一〇、よつて、原告らは、被告中江好孝に対し上記土地の明渡し、および昭和四二年四月一日以降右明渡しに至るまでの一箇月金六、四八〇円の割合による賃料相当の損害金の支払いを求めるとともに、被告医療法人玉水会に対し上記建物の収去と上記土地の明渡しを求める。

と述べ、被告医療法人玉水会の後記抗弁は否認すると陳述した。

立証(省略)

被告ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

一、請求原因第一項ないし第四項の事実は、認める。

二、同第五項の事実は、否認する。すなわち、借地法第一七条第一項本文によれば、借地法施行前に設定された借地権は、存続期間の定めがあると否とを問わず、同条の適用を受けるものであるところ、本件賃貸借契約は、昭和一二年四月一日に締結された非堅固の建物の所有を目的とするものであるから、昭和三二年三月三一日をもつて存続期間は満了し、同年四月一日右契約は更新されたものと看做されるので、原告の上記主張は、その前提においてすでに理由がない。

三、同第六項の事実は、否認する。

四、同第七項のうち被告中江好孝が原告主張の日に被告医療法人玉水会に対し本件賃借権を譲渡したことは認めるも、その余の事実は争う。右譲渡については、前記大園金次郎の生前にその承諾を得ていたものである。

五、同第八項の事実は、否認する(ただし、右明渡しに応じないことは認める)。

六、同第九項の事実は、認める。

と述べ、抗弁として、

一、仮に被告中江が原告主張のような公正証書による賃貸借契約証書を作成し、昭和四二年三月三一日限り本件土地を明渡す旨の合意をしたとしても、右合意は借地権者である同被告に不利な約定であるから、借地法第一一条の規定により定めなかつたものとみなされる。

二、被告医療法人玉水会は、上記のとおり被告中江から適法に賃借権の譲渡を受けたものであるが、仮に亡大園金次郎の承諾を得ていないとしても、被告医療法人玉水会の代表者は被告中江であり、事実上は被告中江が使用しているに等しいから、右譲渡については本件賃貸借関係を破壊するに至る程の背信性はない。従つて、原告らは、本件賃貸借契約を民法第六一二条により解除することは、できない。

と述べた。

立証(省略)

(別紙)

第一目録

鹿児島市下伊敷町一六三番三

宅地 九二六・五一平方メートル(二八〇坪二合七勺)

但し昭和三三年の都市計画で現地換地処分により実面積は七九三・五二平方メートル(二四〇坪四勺)に減縮

右土地の内四九五・八六平方メートル(一五〇坪)

但し右換地処分により実面積は三五七・〇二平方メートル(一八〇坪)にして別紙図面赤線部分(編注「斜線部分」をもつて示す。)

第二目録

同所同番地四

家屋番号 同町一二八番

一、木造瓦葺平家建居宅一棟(現況病室)、床面積七〇・九四平方メートル(二一坪四合六勺)

附属建物

木造瓦葺平家建病室一棟、床面積九八・三四平方メートル(二九坪七合五勺)

(別紙図面)

<省略>

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